『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』(みやすのんき、彩図社、平成28年12月26日第1刷、2016年11月25日刊)は、サブスリーを達成した効率の良いランニング・フォームをウォーキングに落とし込んだ画期的なノウハウ本。
みやすのんきさんのランニング本第1弾の『走れ!漫画家 ひぃこらサブスリー』の不明点を解決できるかもしれない希望と、最近何度も故障するランナーはウォーキングから見直した方がいいのではないかと思っていたところだったから自分にとってタイムリーだった。
何度も再読。大転子ウォーキングを試した上で実家に贈ったり、日常ウォーキングをしている知り合いに本書を勧めている(2016年12月11日現在)。
『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』概要
著者のみやすのんきさんは著名な漫画家で52歳でサブスリーを達成。その体験を元にランナーを読者対象とした『走れ!漫画家 ひぃこらサブスリー』を2015年12月に出版。漫画家視点でランニングフォームについて分析した部分が新鮮で目から鱗だった。
それから1年。
ランニング本第2弾を心待ちにしていた期待を打ち砕いてまさかの健康書『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』を2016年11月に出版。
『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』は、巷に溢れるウォーキング理論の誤りを検証、ウォーキングの効用、解剖学とフルマラソンでサブスリーを達成した実体験に基づいた大転子を活用する「大転子ウォーキング」を提唱している。
当然、大転子ウォーキングは『走れ漫画家! ひぃこらサブスリー』に書いてあるサブスリー達成までの経緯の中から生まれた。なので少なくとも『走れ漫画家! ひぃこらサブスリー』を読んで好感を持ったランナーが読めば有益になる部分が多いだろう。
また、故障が多いランナーも日常最も多い歩くという行為から見直すきっかけになるはずだ。
『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』各章の構成紹介
『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』各章の簡単な紹介と感想。
『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』の「自己紹介とまえがき」の直後に「本書における身体部位の名称/歩き方の表現」と骨格や筋肉の図、詳細説明ページ番号付き(リンク先)で「これが大転子ウォーキングだ!」と「大転子ウォーキングの主な効果」が掲載されている。
『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』全体を読む時間がない読者、とりあえず即実践したい読者にも配慮しているみやすのんきさんの心意気が滲み出ている。掴みはオッケー。これだけで好感触。
『走れ!漫画家 ひぃこらサブスリー』が主に分析の書だとすると、『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』は実践の書といえる。
第1章「日本人の歩き方がヤバイ! このままでは一億総寝たきり時代に突入する?」では、みやすのんきさん自身の骨折体験から始まる動かないことで健康を害する危険性や街でよく見かける足だけの歩き方の数例を紹介しながらそれらの問題提起。
第2章「厚生労働省推薦の『理想の歩き方のフォーム』がヘン』では、厚生労働省が良しとするウォーキング・フォームの反論でさらに一般的なウォーキング・フォームに疑義を唱える。
第3章「間違いだらけの体幹意識 『背骨よじらせウォーキングに注意』では、所謂一軸の動き─体幹を雑巾絞りのようにねじって歩く─へとどめの反論。
スポーツジムで長年やっている水中ウォーキングへの考察もあったので、水中ウオーキングをやっている知り合いに『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』を贈った。
第4章「重力を感じて歩く大転子ウォーキングのススメ」では、大転子ウォーキングの利点、歩くメカニズムを極めた競歩との相同性、文字や立体的に理解できるよう工夫した図による大転子ウォーキングのノウハウと、本だけで大転子ウォーキングを習得させたいというみやすのんきさんの心意気を感じた。
第5章「大転子ウォーキングで街に繰り出そう」では─特にインドア派の読者のために─ウォーキングとダイエットというテーマや、ウォーキングの楽しみ方を倍増する工夫を紹介している。
第6章「足の構造を理解すれば歩き方はもっと楽になる」では、ウォーキングで選んじゃいけないシューズのダメ出しから見える選択法、ウォーキングに必要な筋肉を鍛えるエクササイズ等を紹介。
第6章でびっくりした話題を1つ紹介しておく。
それは大転子を凹ますダイエット法への警告。実際に検索したら本当にあってまたびっくり。
みやすのんきさん、細かいところまで目配りしてる。
『走れ!漫画家 ひぃこらサブスリー』にあった違和感
ところで『走れ!漫画家 ひぃこらサブスリー』を読んでいて違和感がある部分があった。
それは「右足が着地した時に右側の骨盤は上がっています」44p とその左ページにある「一歩一歩、骨盤は着地衝撃で左右に上下する」45p という箇所。
骨盤というか大転子の動きはよくわからず棚に置いておくことにした。
そして2016年11月。Amazonに『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』の予約ページを発見。表紙画像の骨盤の絵を見て「これこれ」と思った。
発売後に一読してウォーキングの実戦から出たのか、ランニング実戦から出たのか不明だったから、Twitterでみやすのんきさんに表紙の絵について質問。そしてみやすのんきさんからの返信が以下。
ランニングです。ウォーキング姿勢がよくない人たちの歩く左右の足幅が一様に広がっているのが気になりだしまして。ああ、やっぱ、これも骨盤なんだなと。ラン本の方は1月末になりそうです(;^_^A
— みやすのんき (@MiyasuNonki) November 30, 2016
ランニングからということはみやすのんきさんのランニングフォームと関連ありということだ。ランナーとして見過ごせなかった。だから大転子ウォーキングを習得したいと思った。
そして読んでいるうちに、この動きって二軸に似てると思って二軸走法の文献を引っ張り出して関連部分を探して読み直した。
二軸走法と重心移動についての説明
『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』119ページにある小見出し直前まで読んで「なんだ。これって二軸(走法)じゃないの?」と思った読者もいるだろう。
そこで二軸論者がどう書いているか以下に最小限の範囲で挙げる。図は著作権の関係で載せられない。各自で確認。
『一流選手の動きはなぜ美しいのか』(小田伸午、角川書店、平成二十四年二月二十五日初版発行)で書いている「遊脚リードの走り」について。
「世界のトップスプリンターは、一直線の上を走らずに、一直線を左右をまたぐように走っています。試みに一直線をまたいでその場足踏みをすれば、右足が着地すると、からだが左のほうに倒れていく感覚がわかります。遊脚でリードする走りです。
遊脚でリードする走りは、支持点と重心点を左右にずらす走りと言えます」158p
図42の左側のスケルトンでは遊脚側に胸郭が乗っている。小さい図なので微妙だが肩はほぼ平行になっている。『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』に近い図。
『常歩式スポーツ上達法』(常歩研究会編、スキージャーナル、2007年6月20日初版第一刷)の35ページの図の支持脚と遊脚の説明にはこう書いてある。
「左足が着地して体重がかかったときには着地足側の腰が高くなり、遊脚側の腰が低くなる(左)。遊脚の膝が着地足よりも前に出た時点から遊脚側が軸になるが、これは肩のラインの傾斜、つまり左の方が跳ね上がることで高い方から低い方に向かって次の軸ができる(右)」
補足すると、図も遊脚側になる側の肩と骨盤が下がっている。
『錯覚のスポーツ身体学』(木寺英史、東京堂出版、2011年5月10日初版印刷)の90ページ下段のよく見ないとわからない連続写真と共に91ページの説明にはこう書いてある。
「一直線をまたぐ方法は自然に振り出される側の脚(遊脚)が意識され、そちらに重心が移動していく感覚が生まれます」
ざっくりまとめてしまうと、一本の直線をまたぐもしくはまたは左右でレールのような2本線を想定した意識で走ると遊脚側に胸郭が乗って重心移動になるという説明をしている。
二軸と大転子ウォーキングの違いとは?
ところが『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』を読み進めるとこの所謂二軸(走法)論が破壊される。
「左足の膝を曲げずに立ち、その上に骨盤をしっかりと載せます。…(中略)…左足の真上に頭が位置します。…(中略)…体重がしっかり足に掛かると、大転子は外側に大きく張り出します」106p
上述した二軸走法ではまたぐようにその場足踏みすると重心が支持脚と逆側に振れると読める。ある程度歩隔を空けてやってみるとわかりやすい。なにせ上述した『錯覚のスポーツ身体学』の写真は車道のぶっとい白線をまたぐように走っている。胸郭が左右に動く意識が強い。
大転子ウォーキングでは支持脚に骨盤を乗っけると骨盤が外側に張り出す(図では上体が遊脚側に寄るように見える)と書いてる。こちらは骨盤(大転子)が左右に動く意識が強い。また歩隔を空ける必要を感じない。その分、動きがコンパクトになる。
どちらが分かりやすく実感できたかと言えば大転子ウォーキングの説明だった。
その後の小見出し「大転子ウォーキングの歩行ラインは一本線に近くなる」119〜121p で二軸論者に喧嘩売ってませんか?
「1本のラインを挟んでその左右を歩く意識が一番イメージに合う」121p と書いてもいるが「身体の構造を踏まえれば答えはおのずとハッキリします」119p と断言、論証は『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』を読んでいただくとして「大転子を緩ませて歩くと、放っておいても1本のライン上に左右の足が寄って着地することになります」120p ときっぱり書いて、更に図37で二軸論者にとどめを刺している。
人間の両脚を前から見るとY字になる。つまり姿勢でよく言われるように脚も中心に寄るようにできているわけだ。1本線をまたいで歩く(移動する)、左右にレールのような(太い)線を想定してその上を歩くと歩隔が開いて中心から外れていく。
『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』を読んで、再度自分で二軸と大転子ウォーキングで歩いてみて比較した。
二軸─真ん中に直線を想定して跨ぐように歩く、左右に2本の線を想定してその上を歩く─だと歩隔を広くするほどインエッジ気味の歩き方になった。
大転子ウォーキングの説明で動かすと上体が自然に支持脚と自動的にアウトエッジを使うようにできていた。
またランニングでも着地時に軽い接地になった。
一軸でもなく二軸でもない大転子ウォーキングの存在感が輝く。
これで長年頭の中にあった二軸のモヤモヤが吹き飛んだ。大転子ウォーキングの方が圧倒的にわかりやすい。つまり身になる。
『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』を推す3つの理由とは?
私が『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』を推す3つの理由。
- 読者が本書だけで習得しやすい説明と立体的にイメージできる図。
- 大転子ウォーキングの方法論で脚をすっと前に出せるようになる。
- 一軸でもなく二軸でもない画期的なフォーム。
他にストーリー性もあって読み物としても斬新な視点のウォーキング本としておもしろかった。
ランナーは『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』を買いか?
読者によって読む観点や理解度が違うので保証はしないが、以下のような読者に合うと思う。
遅いペースの割にすぐ故障してしまうシューズランナーや数キロで肉刺を作ってしまう裸足ランナーはウォーキングからやり直す方がいいと思っている。その際に『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』の視点や大転子ウォーキングのフォームが故障しにくくなる動きのヒントを与えてくれるかもしれない。
『走れ! 漫画家 ひぃこらサブスリー』を読んで、ランニングフォームの動きがよく分からなかった部分があったランナーは少しは明確になるかも。大転子ウォーキングのノウハウがみやすのんきさんのランニングフォーム研究から出てるのだからなんらかのヒントにはなるだろう。
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